ゴーストトリック プレイ後の感想
- 出版社/メーカー: カプコン
- 発売日: 2010/06/19
- メディア: Video Game
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この作品の本質は、ジャンル通り、ミステリーです。プレイ時間は10時間程度。良質な小説を読んだときのように、プレイ後にすごく充足感があり、オススメの逸品です。また、昨今では珍しくクリア後のやり込み要素はまったくありません。本編自身に作品の魂がすべて込められており、蛇足と感じる遊びが少なく、濃いゲームプレイを楽しむことができます。モンハンなど、長時間プレイ前提なゲームデザインとは逆行して作られており、ちょっとだけ刺激のある癒しの時間がほしいときにピッタリです。思えば、昔、ファミコンのゲームはそんな感じのゲームデザインが多かったですね。ただし、一度クリアした後、物語の全貌がわかった上で、もう一度遊ぶと、「あのとき、あの人はどうしていたのか?」の疑問の答えを能動的に知ることができる仕組みにはなっています。
主人公は記憶を失った死者(ゴースト)。物語は自分の死の直後から始まります。日が昇ると死者としての自分は消滅してしまう。そう告げられた主人公は、「自分はなぜ死んでしまったのか」、「自分は何者なのか」を知るために行動を決意します。
このゲームではいくつか特殊な世界観が設定されています。
- 死者には実体がなく、現実世界の生きている人間ではない「物体」に「トリツク」ことで移動できる。
- トリツいた「物体」を「アヤツル」ことで現実世界に干渉できる。
そして、
- 死んだ人間に「トリツク」ことで、その死の4分前にさかのぼることができる。
- さかのぼった過去で「トリツク」と「アヤツル」を使って干渉した結果、その人間の死を回避することができる。
- 死者は生きている人間と直接会話することはできない。
- ただし、死を回避した人間とは、その後の現実で、近くにいれば、いつでも会話ができる。
つまり、このゲームは、以下の繰り返しで構成されています。
- 死んだ人間にトリツき、その死の4分前にさかのぼる。
- 「トリツク」と「アヤツル」を駆使して、その死を回避する。
- 死の運命から回避した人間と会話することで、自分の死の真相に近づく。
自分の死の真相を知りたいという動機、身近にいる人間の死を自分の手でなんとか回避したいという動機、トリツいた物体をアヤツってぐりぐり動かしたいという動機。大局的な動機から局所的な動機までのつながりがよく考えられており、次々プレイしたくなる作りになっています。
ゲームプレイに必要な操作は、点と点をタッチペンでつなぐだけ。極めてシンプルです。なおかつ、すべての操作がタッチペンがなくてもボタン操作で可能な作りにしてあります。ただ、タッチペンがあった方が直感的にプレイできます。
さて、本作品にはもうひとつ大きな特徴があります。それは、登場人物もアヤツル物体もぐりぐり動く、という点です。これには、
- たくさん出てくる登場人物の名前は覚えられない。でも、個性的なモーションを見れば、どの登場人物なのかすぐに思い出せる。
- 話がシリアスでよく考えれば息が詰まりそうな場面でも、コミカルなモーションにより、緊張感が和らぐ。死の回避を迫る場面が何度も続く本作品にとって、これはすごく重要。
のような演出上の効果もありますが、いちばん大事なことは、死を回避する際の進行中も刻一刻とリアルタイムに登場人物や物体が動くことにあります。そして、
- 「トリツク」と「アヤツル」を、どの物体に対して、どの順番で、どのタイミングで行うかを、死亡時刻までの登場人物と物体の動きから推理する
これこそがこの作品における解くべき「パズル」になります。だからこそ、自分がまさに行いたいタイミングで「トリツク」、「アヤツル」ができることがきわめて重要であり、操作系が最短時間でストレスなく行えるようにシンプルになっている理由はここにあるように思えます。特に「死亡時刻まであと何秒」みたくカウントダウンの演出も入るため、死亡時刻間際に緊張感がいちばん高まり、得てして死亡時刻間際までパズルが解けないようになっていたりしますが、その分、パズルを解いたときの快感は格別なものがあります。この辺りは以下の体験版によってプレイ感覚を確認することができます。
http://www.capcom.co.jp/ghosttrick/trial.html
最後に重要な点が巧舟が織り成すテキストの妙です。これはプレイしてくださいとしか言えないのですが、アクション要素も絡む本作品ながら、プレイ後には良質な小説を一冊読み終えたような感覚を提供してくれます。私はゲームの最後にもう遊べなくなるのかと少し寂しい気持ちにもなりました。
本作品は、いわゆるタイムパラドックスを含む世界観になりますが、適度に説得力があって、これはこれでアリと思わせるこの世界ならではのルールが決められています。最後までプレイするとわかりますが、次回作とか考えずに、全力で作品を作ってくれた感じがすごく伝わってきました。昨今の続編氾濫の世の中にはなかなか見当たらないゲーム体験ができて楽しかったです。とてもオススメなゲームなので、ぜひプレイしてみてください。